『ところでクラックコアって手術を知っていますか?』『ああ、脳の移植手術だと噂に聞いている』 やはりケリアンは知っていたようだ。 彼の相手を値踏みするような眼付は、ディミトリが本当に手術を受けているのかを知りたがっているのだろう。『だが、詳しいやり方は知らない』 どういった手術なのか質問しようとしたら先に言われてしまった。『ロシアの金持ちが首から上を挿げ替える手術をしたのを知っているか?』『いえ』『実際に行われて失敗したそうだ』『え』『彼はそこで死んだ…… と、伝えられてる……』 さすがロシアだ。危険な領域であろうと躊躇なく踏み込んでいく。『ところが脳の移植に成功して生きていると噂が流れたんだよ』 実際に手術をしたのは中国人の外科医チームであった。そのチームの一人から噂が広がっていったらしいのだ。『君も似たような事をされている可能性が高いね』 やはり、ケリアンは自分のことを知っていたようだ。つまり、麻薬組織の金を横取りした事も知っているのだろう。 ディミトリは思わず自分の頭を撫でた。『貴方も詳しいですね』『ああ、日本で成功しているらしいと噂が流れたからね』『それが自分だと?』『そうだ』 ディミトリは首を振ってため息を付いて見せた。 彼の方針として誰にも、自分はディミトリであるとは認めないことにしていた。どうせ、確認のしようが無いから平気だ。『中国の金持ち連中から、自分も手術が受けられないかと問い合わせが来ているのさ……』『へぇ…… 長生きのために?』『ああ、ロシアだろうと中国だろうと、金持ちというのは若い肉体を手に入れたがるものなんだよ』 そう言って笑った。人間の欲望にはキリが無いものだ。次々と欲しい物を考えつく。『出来れば不老不死も手に入れたいと?』『そうだろうな…… 私は命に限りがあるから尊いと思うのだがね……』 ケリアンは、そう言うと手元の茶を飲んだ。これは本音であろう。 ディミトリも賛成だ。命ある限りナイスボディのお姉ちゃんと仲良くしたいと思っている。『ところで、頼みがあるのですが……』『何でも言ってくれ』『娘さんを拉致したグループと自分は揉めています』『うむ、連中は君のことばかり質問していたそうだ』『彼らとの問題を解決する必要があるのです』『ほぉ』『その為には彼らのアジトを突止める必
学校。 灰色狼のアジトを特定する作業はケリアンにお願いした。複数のアジトがあるとの事なので、彼らのリーダーが居る場所を絞り込んでもらうのだ。 今の所はシンイェンの恩人と言うことも有り、表面上は利害関係が無いのが幸いだ。 もっとも、金に目が眩まない人間などいないのはディミトリも承知している。(使える者は何でも使うさ……) 平日の昼間という事も有り、中学生の振りをしたディミトリは学校に来ていた。 連夜のハードな日々に比べると、何とも気の抜けた平和な空間だ。「おい、若森…… せめて連絡ぐらいしろよ」 休み時間に大串が話し掛けて来た。どうやら祖母が電話連絡をしたらしい。 何も知らない彼は返事にかなり困ったようだった。「宿題が間に合わないから手伝って貰ったと言っておいたからな」「ああ、済まない」「お前は何をやってるんだよ」「怖い顔したおっさんたちと鬼ごっこさ」 そう言って、ディミトリはニヤリと笑った。鬼ごっこの意味に気が付いた大串は肩を竦めて離れて行った。 彼もディミトリが厄介な事に首を突っ込んでいるのは知っている。関わり合いになるのが嫌なのだろう。 するとケリアンから場所が判明したとのメールが来たのに気が付いた。(流石に仕事が早いね……) ケリアンからのメールを見ようとして別のメールにも気付いた。これは探偵会社からだった。 見張っている車の事を調査してもらっていたのだ。 ディミトリが大人のなりをしていれば、車の番号から所有者を割り出すのは簡単な事だ。 しかし、見てくれは中学生なので、まともに取り合って貰えない。 そこで、インターネットを通じて探偵会社に依頼しておいた。金が掛かるが仕方が無い。 メールによるとディミトリを見張っている黒い不審車は、『江南警備保障』という警備会社の所有する車だった。(コイツは間違いなく公安警察の覆面会社だろうな……) 政府機関が非合法な活動を誤魔化すのに、民間会社を装うのは良く使われる手だ。 非合法活動が専門のチャイカからの受け売りだが間違いないだろう。 一方、大串を見張っている車は群鹿警察の所有する車であった。こっちは東京都内の警察署だ。 ディミトリは行ったことも無い場所だった。(所轄警察? なんで所轄の違う警察が協力しているんだ?) ディミトリが居るのは東京都下の府前市だ。 不思
『じゃあ、今の灰色狼を仕切っているのは誰ですか?』『張栄佑(ジャン・ロンヨウ)だと思う』『どういう人物ですか?』『中国の東北地方を根城にしている黒社会のボスだ。 実際は公安部の工作員だと睨んでいるがね』『中々複雑なんですね』『俺はジャンに話を持ちかけたのがシンだと睨んでいる』『シンの画像は有りますか?』『こんなのしか無いが……』 そう言って携帯電話の画像を見せて来た。一見すると優しそうなおじさん風だ。隠れ蓑にするには丁度良さげな風貌だった。『その場所に下見に行きたいので連れて行って貰えませんか?』 今回は荒事になるのは目に見えている。まず、敵が何人くらいいるのか位は知っておきたい。 暫く、地図を睨みつけた後でケリアンに頼み事をした。自転車で行くには距離が有るからだ。 こういう時には子供の身体である事が恨めしく思うのだった。『ああ、良いだろう。 部下に送らせよう……』 ケリアンが部下を二人付けてくれた。何れも軍隊出身なので当てになると言っていた。 車は普通の乗用車だ。目立たないようにと配慮してくれたらしい。『英語は?』『大丈夫ですよ。 坊っちゃん』 二人共英語は大丈夫だと聞いて安心した。自分の拙い中国語では心許ないからだ。 道中、車の中で二人に聞くと、灰色狼のアジトを見に行くだけとしか聞いてないようだ。『あの、質問しても良いかな?』『ああ、良いよ……』 運転席の男が質問してきた。『あの物騒な連中と知り合いなんですか?』 彼らは香港から日本に派遣されているらしかった。灰色狼の荒っぽい仕事のやり方は彼らも知っているようだ。『どちらかと言うと、向こうの連中の片思いさ……』 ディミトリはそれだけしか言わなかった。偵察が目的なので彼らに詳しく説明する気が無かったのだ。 ボスに少年をアジトが見える所まで連れて行って来いと言われ不思議に思っているらしかった。『あの連中は直ぐに青龍刀を出して振り回して来る言うからな……』『格好はいっちょ前だけど、強く無いって話を聞いたぞ?』『でも、シェンたちがやられちまったんだろ?』『不意を突かれたんだろ……』『普通は命までは取らないもんだよ。 話し合いの余地が無くなっちまうからな』『日本には温い組織しか無いから加減が分からないんだろうよ』 車の中で男たちは気楽にお喋りをしていた。
ディミトリは携帯電話を取り出してケリアンに電話を掛けた。『ケリアンさん……』『どうしましたか?』『今、車がドローンに追跡されてます。 貴方の指図じゃないですよね?』 ディミトリは念の為に尋ねてみた。ひょっとしたら護衛用の監視かも知れないと考えたからだ。『私は知らないです……』『そうですか』『はい、灰色狼が貴方の行動を見張る為に飛ばしているのでしょう……』『恐らく……』 裏社会の長いケリアンはドローンの意図を言い当てた。ディミトリも同じ意見だった。『ケリアンさん。 そこは直ぐに引き上げた方が良いですよ』『ああ、私も危険な匂いがする。 そちらも気を付けて……』『はい、僕が居ないので彼らは気兼ねなく銃を使って襲撃するでしょうからね』 ディミトリの話で自分に危険が迫っている事に気が付いたケリアンはそう言って電話を切った。(俺がアオイの救出に向かったのを知っているはず……) ディミトリが居ない隙に乗じて、アオイたちを人質に取ろうとする可能性があるのだ。 ケリアンとの電話が終わった時に、横合いにバイクが並走して来た。中型のバイクで運転手は一人だけだ。 バイクは追い抜くわけでなく、並走して車内をチラチラ見始めた。『お客さんだ……』 ディミトリは呑気に世間話をしている二人に声をかけた。 バイクの行動にピンと来る物があった。ディミトリが居るかどうかの確認であろう。『え?』 そう言うと運転手は自分の右側に顔を向けた。バイクを確認しようとしたのだ。 後部座席のディミトリを確認したバイクの運転手は懐から銃を取り出した。『危ないっ!』 ディミトリは叫ぶのと銃撃は同時だったようだ。 運転手側の窓が砕け散って、運転手の脳やら髪の毛やらがフロントガラスにへばりついた。 それを見ながらディミトリは自分の銃を取り出した。モロモフ号でかっぱらった奴だ。(くそっ! なんてせっかちな連中なんだ!) ディミトリは咄嗟に後部ドアの下側に屈み、自分の銃で窓越しにバイクを銃撃した。窓ガラスが車内に飛び散る。 当たるかどうかでは無く、牽制の為に銃弾をバラ撒いたのだ。『運転を!』 ディミトリは叫ぶが助手席の男は顔を伏せたままだ。銃弾が自分目指して放たれているので仕方が無い所だ。 片手でハンドルを握っているが、前を見てるわけではない。このままでは事故っ
住宅街。 ディミトリは後ろを振り返って追跡している車を確認した。まるで他の車を蹴散らすかのように突進する二台が見える。『灰色の車と黒のSUVが付いてきている!』『分かっている。 しっかり掴まっていてくれ……』 運転手はバックミラーをちらりと見てアクセルを踏んだ。座席に押し付けられる具合で、加速されたのをディミトリは感じとった。 ディミトリは弾倉を交換した。そして、何気なくサプレッサーを見るとひび割れているのが見えた。(チッ、コレが原因か……) 弾道が安定しないのは整備不良だと思っていたが勘違いのようだった。ひび割れから発射ガスが漏れて銃弾がぶれてしまったのだろう。ディミトリはサッサとサプレッサーを外してしまった。 その間にもディミトリたちが乗る車は住宅街を駆け抜けていく。追跡車は引き離されまいと加速してきた。 そんな、無茶な運転をする三台の前に、運送業者のトラックが横合いから出てきた。『ヤバイっ!』 咄嗟にハンドルを切り、トラックをギリギリで躱していく。その後を二台の車が同じ様に走っていった。 自分のトラックの鼻先をすり抜けていくので運転手が驚愕の表情を浮かべていた。 だが、安心したのも束の間。今度は交通量の多そうな新道が前方に見えている。『交差点で曲がるから掴まっていてくれっ!』 運転手は怒鳴るとサイドブレーキを引いて、車を横滑りさせ始めた。そして、新道の交差点内に侵入すると同時にアクセルを踏み込んだ。車は交差点を強引に曲がっていった。 後続した追跡者も同じ様に曲がろうとしたが、ハンドルを切り過ぎたのか車が違う方向に鼻先を向けてしまっている。 いきなり乱入してきた乱暴者たちに、普通に走っていた車からクラクションが鳴らされていた。『くそっ! 前からも来やがったっ!』 運転手が怒鳴った。進行方向に見える正面の交差点を強引に曲がってくる車が見えた。 敵の新手であろう。反対車線を猛烈な勢いで逆走してくる。(……) 逃げ込めそうな小道は無い。あるのは駐車場ビルしか無い様だ。 ディミトリたちの乗った車は、パチンコ屋に付属しているらしい駐車ビルに逃げ込んだ。追跡車も続いて飛び込んでいく。 その駐車場ビルは三階建てで、各階に六十台位は駐車できる中規模のものだ。パチンコ屋とは二階部分に通路が繋がっている。『拙いな……』 ディミト
車は慌ててハンドルを切り替えしたが間に合わない。そのままフォークリフトに突っ込んでしまった。 ディミトリは咄嗟にシートベルトに腕を絡めて身構えた。こうしないと衝突のショックで車外に投げ出されてしまうからだ。 運転手は自分のシートベルトをしていなかったようだ。彼はフロントガラスに頭から突っ込んで窓枠ごと外に投げ出されていった。(畜生…… ツイてないぜ……) ディミトリは車の中からヨロヨロと抜け出した。追手の車が盛んにタイヤの音を響かせながら近づいて来ているからだ。 投げ出された運転手は跳ね飛ばしたフォークリフトの傍に倒れている。運転手の肩を揺さぶってみたが、彼は何も言わなくなっていた。 最初に現れたのは白い方の車だった。ディミトリは柱に隠れて立ち銃を構えた。 白い車の運転手は速度を緩めずに迫ってきた。そして運転席の窓から銃を突き出している。(それは無理だ) ディミトリは運転席に向かって引き金を引いた。三発程撃つと運転席が血で染まり、車は停車していた車を巻き込んで停車した。 その脇を黒いSUVはすり抜けてディミトリに迫ってきた。(邪魔っ!) ディミトリは車に向かって銃を撃つと同時に停車した車に向かって走り出した。二発は当たったようだが何事もなく走っている。 黒いSUVは壁際まで走って反転しようとしていた。 ディミトリが車の中を覗き込むと、運転手は絶命しているらしかった。助手席にもうひとり男が居た。怪我をしているらしく呻いていた。時間が無いので銃撃して永久に黙らせてやった。(お前も邪魔っ!) 運転席から運転手の死体を外に放り出すと乗り込んで走らせる。バックミラーを見ると直ぐ傍まで黒いSUVはやって来ている。 車を運転しながら逃走経路を色々と考えたが名案が浮かばない。その間にも黒いSUVから銃弾が飛んできている。 駐車場ビルの同じ階を二台の車は競り合うように走り続けた。 もちろん、ディミトリも銃で反撃している。車のタイヤの軋む音と銃の発射音がビル内に鳴り響いていた。(くそっ、サプレッサーを外したのに全然当たらないっ!) 追跡している車を銃撃しているが肩越しなので当たらない。そこでサイドブレーキを引いて車をサイドターンさせた。 そして、ドアを開けたままバックで下がり、停めてあった車でドアを弾き飛ばした。(よっしゃ、これで銃で闘
その場に居たパチンコの客たちは、一瞬に呆気に取られてしまっていた。だが、直ぐに店内は悲鳴と怒号に包まれていく。「え?」「ええ!?」「ちょっ!」「ああーーーっ! 俺のドル箱に何をする!」 誰かが大声で喚いていた。それでも、彼らはパチンコのハンドルを握る手を緩めない。 リーチ(大当たりの前兆)が掛かるかも知れないからだ。緊急事態より眼の前にある台の去就の方が大事なのだろう。 普通の人とは感覚が違うのだからしょうがない。 そんな喧騒とは別に運転席でモゾモゾと動く影があった。「痛たたた……」 ディミトリだ。彼は無事だったようだ。すぐに自分の両手を握ったり開いたりして怪我の有無を確認していた。 足の無事を確かめようとして、顔が歪んでしまった。どうやら打ち所が悪い部分があったようだ。(ヤバイ…… 早く逃げないと……) ふと見るとディミトリは自分の銃の遊底が、引かれっぱなしになっているのに気がついた。弾丸を撃ち尽くしたのだ。 予備の弾倉も使い切っている。(コイツは何か得物を持ってないか……) 助手席で事切れている男の身体を触ってみた。すると男の懐にベレッタを見つけた。弾倉はフルに装填されている。 右手が銃床を握っているので取り出そうとしたのだろう。乗り込もうとした時に銃撃したのは正解だったようだ。 ディミトリは銃を奪い取ってから、予備の弾倉を探したが持っていなかった。(まあ良い。 これだけでも闘える……) そして、懐から狐のアイマスクを取り出して被った。(くそっ、玩具のアイマスクしか無いのかよ……) 本当は目出し帽で顔を隠したかった。だが、狐のアイマスクしか無かったのだ。 これはケリアンが手配してくれた車のシートポケットに入っていた物だ。恐らくシンウェイの物であろう。(無いよりマシか……) パチンコ店の至る所に監視カメラがあるのは承知している。それらの監視の目を誤魔化す必要が有るのだ。 これだけの大騒ぎを起こしたのだから、警察が乗り出すのは目に見えている。いずれバレるだろうが、今はまだ警察相手にする余裕が無い。時間稼ぎが目的だ。(時間を稼いで楽器ケースにでも隠れて外国に逃げるか……) ディミトリは足を少しだけ引き摺るように階段を下りていった。最早、痛みがどうのこうの言ってられない。 急がないと駐車場ビルから、奴らがすぐ
何処かの倉庫。 ディミトリは倉庫と思われる場所に一人で居た。 その顔は腫れ上がっており、片目が巧く見えないようだった。口や鼻から出た血液は乾いて皮膚にへばり付いている。 恐らく仲間をやられた報復で、散々殴られていたようだ。(くそっ……) 気が付いたディミトリは腕を動かそうとした。だが、出来ないでもがいていた。 安物っぽいパイプ椅子に両手両足を拘束されていた。両手両足をそれぞれ別のパイプに拘束バンドで止められているのだ。 これでは解いて逃げ出すのに時間が掛かり過ぎてしまう。 彼の逃げ足が早いことを、灰色狼の連中は知っているのだろう。(身体が動かねぇな……) 部屋には中央に灯りが一つだけ点いていた。壁際に監視カメラがある。室内に見張りが居ないのはこれで監視しているのだろう。 入り口には長机が置かれてあり、その上にディミトリの私物が並べられている。 暫くすると入口のドアが開いて何人かの男たちが入ってきた。 ディミトリが意識を取り戻したのに気が付いたらしい。「コイツを殴るなって言ったろ?」 派手なシャツを着た男が、ディミトリの様子を見て怒鳴った。ディミトリが怪我をしているのが気に入らないらしい。「すいません……」「コイツにケンジを殺られたんで…… つい……」 何だか派手なシャツを着た男と、スーツ姿の男二人がやり取りをしている。 ケンジとは誰なのか分からないが、ディミトリが殺った奴の一人であるのは間違いない。 シャツの男がコイツラの頭目だろう。(じゃあ、コイツが張栄佑(ジャン・ロンヨウ)か……) ジャンは灰色狼の頭目だとケリアンが言っていた。そして、目的の為には手段を選ばない男だとも聞いている。 性格が冷酷で厄介な相手であるのは間違いない。「特に顔を殴るのは良くない……」 ジャンは座らされているディミトリの周りをゆっくりと歩きながら言った。ディミトリの怪我の具合を確認しているのだろう。 見た目は酷いが死ぬことは無さそうだ。 ジャンが歩く様子をディミトリは目で追いかけながら睨みつけていた。「もし記憶が飛んでいたら、今までの苦労が水の泡に成っちまうからな」 そう言って笑いながらディミトリの頭を掴んで自分に向けさせた。そして顔を近づけてディミトリの目を覗き込んだ。 まるで相手の深淵を汲み上げようとするような鋭い目つきだ。
『はい……』「帰りの足が無くて往生してるんだ」『はい……』 ディミトリは電柱に貼られている住所を読み上げた。田口兄は十五分程でやってこれると言っていた。『あの連中は何か言ってましたか?』「ああ、鞄を返せとは言っていたが、それは気にしなくて良い」『どういう事ですか?』「話し合いの最中にバックに居る奴が出て来たんだよ」『ヤクザですか?』「そうだ」『……』「ソイツの組織と別件で前に揉めた事があってな……」『あ…… 何となく分かりました……』「ああ、かなり手痛い目に合わせてやったからな」『……』 ディミトリの言う手痛い目が何なのか察したのか田口兄は黙ってしまった。「俺の事を知った以上は関わり合いになりたいとは思わないだろうよ」『い、今から迎えに行きます』 田口兄はそう言うと電話を切ってしまった。 大通りに出たディミトリは、道路にあるガードレールに軽く腰を載せていた。考え事があるからだ。 帰宅の心配は無くなった。だが、違う心配事もある。(本当に諦めたかどうかを確認しないとな……) 追って来ない所を見ると諦めた可能性が高い。だが、助けを呼んでいる可能性もあるのだ。確かめないと後々面倒になる。 その方法を考えていた。(家に帰って銃を持って遊びに来るか…… いや、まてよ……) そんな物騒な事を考えていると、違う方法で確認出来る可能性に気が付いた。(剣崎が灰色狼に内通者を持っているかもしれん……) ディミトリの見立てでは剣崎は灰色狼に内通者を作っていたフシがある。 灰色狼は日本に外国製の麻薬を捌く為
隣町の路上。 店を出たディミトリは、大通りの方に向かって歩いていった。なるべく人通りが或る方に出たかったからだ。 彼らが追撃してくる可能性を考えての事だった。相手が戦意を失っている事はディミトリは知らなかった。だから、追撃の心配は要らなかった。 だが、違う問題に直面していた。(う~ん、どうやって家に帰ろうか……) 学校帰りに大串の家に寄っただけなので、手持ちの金は硬貨ぐらいしか持っていない。ここからだとバスを乗り継がないと帰れないので心許ないのだ。(迎えに来てもらうか……) そう考えたディミトリは、歩きながら大串に電話を掛けた。 まさか、バーベキューの串で車を乗っ取るわけにもいかないからだ。「そこに田口はまだ居るのか?」『ああ、どうした?』「田口の兄貴に俺に電話を掛けるように伝えてくれ」『構わないけど……』 大串が言い淀んでいた。気がかかりな事があるのは直ぐに察しが付いた。「田口の兄貴を付け回していた車の事なら、もう大丈夫だと言えば良い」『え!』「お前の家を出た所で、田口の兄貴を付け回してた連中に捕まっちまったんだよ」『お、俺らは関係ないぞ?』前回、騙して薬の売人に引き合わした事を思い出したのだろう。慌てた素振りで言い訳を電話口で喚いている。「ああ、分かってる。 連中もそう言っていた」『……』「きっと、見た目が大人しそうだから言うことを聞くとでも思ったんだろ」『無事なのか?』「俺が誰かに負けた所を見たことがあるのか?」『いや…… 相手……』「大丈夫。 紳士的に話し合いをしただけだから」『でも、それって……』「大丈夫。 今回は殺していない……」『&helli
「この通りだ……」 ワンは銃を机の上に置いた。そして、両手を開いて見せて来た。「なら、その銃を寄越せ……」 ワンは銃から弾倉を抜いて床に置き、足先で滑らせるように蹴ってきた。ディミトリはそれを靴で止めた。「アンタに弾の入った銃を渡すと皆殺しにするだろ?」(ほぉ、馬鹿じゃ無いんだ……) 彼の言う通り、銃を手にしたら全員を皆殺しにするつもりだった。 ワンはそれなりに修羅場をくぐっているようだ。 ディミトリは滑ってきた銃をソファーの下に蹴り込んだ。これで直ぐには銃を取り出せなくなるはずだ。「鶴ケ崎先生はどうなったんだ?」「おたくのボスに殺られちまったよ」「……」 どうやら、灰色狼は組織だって動いて無い様だ。誰が無事なのかが分かっていないようだ。「それでボスのジャンはどうなったんだ?」「さあね。 ヘリにしがみ付いていたのは知ってるが着陸した時には居なかった」「殺したのか?」「知らんよ。 東京湾を泳いでいるんじゃねぇか?」(ヘリのローターで二つに裂かれて死んだとは言えないわな……) 手下たちは額に汗が浮かび始めた。さっきまで脅しまくっていた小僧がとんでも無い奴だと理解しはじめたのだろう。「ロシア人がアンタを探していたぞ……」「ああ、奴の手下を皆殺しにしてやったからな…… また、来れば丁寧に歓迎してやるさ」 ディミトリは不敵な笑みを浮かべた。 ワンは少し肩をすぼめただけだった。どうやらチャイカと自分の関係を知らないらしい。「俺たちは金儲けがしたいだけだ。 アンタみたいに戦闘を楽しんだりはしないんだよ」「……」 やはり色々と誤解されているようだ。自分としては降りかかる火の粉を振り払っているだけなのだ。結果的に
ナイトクラブの事務所。 ディミトリは弱ってしまった。部屋に入ってきた男はジャンの部下だったのだ。そして、この連中はコイツの手下なのだろう。 折角、滞りなく帰宅できるはずだったのに厄介な事になりそうだ。(参ったな……) ディミトリは顔を伏せたが少し遅かったようだ。男と目が合った気がしたのだ。「お前……」 入ってきた男が何かを言いかけた。その瞬間にディミトリは、右袖に仕込んでおいたバーベキューに使う金串を、手の中に滑り出させた。こんな物しか持ってない。下手に武器を持ち歩くのは自制しているのだ。 ディミトリは車で送ってくれると言っていた男の髪の毛を引っ張って喉にバーベキューの串を押し当てる。 これならパッと見はナイフに見えるはず。牽制ぐらいにはなると踏んでいるのだ。 いきなり後頭部を引っ張られてしまった相手は身動きが出来なくなってしまったようだ。何より喉元に何かを突きつけられている。 兄貴と呼ばれた男と部屋に居た残りの男たちも動きを止めてしまった。「動くな……」 ディミトリが低い声で言った。優等生君の豹変ぶりに周りの男たちは呆気に取られてしまっている。 しかし、入ってきた男は懐から銃を取り出して身構えていた。ディミトリの動きに反応したようだ。「え? 兄貴の知り合いですか?」「何だコイツ……」 部屋に居た男たちはいきなりの展開に戸惑いつつ兄貴分の方を見た。「ちょ、待ってくれ!」 だが、兄貴と呼ばれた男が意外な事を言い出した。(ん? 普通はナイフを捨てろだろ……) ディミトリは妙な事を言い出した男に怪訝な表情を浮かべてしまった。「俺は王巍(ワンウェイ)だ。 日本では玉川一郎(たまがわいちろう)って名乗っているけどな……」「ああ、ジャンの手下だろ…… 倉庫で
「田口君のお兄さんが鞄を持って行ったって何で解ったんですか?」 大串の家で聞いた限りでは誰にも見られていないはずだ。だが、現に田口の家ばかりか交友関係まで把握しているのが不思議だったのだ。「防犯カメラに田口が鞄を弄っている様子が映ってるんだな」 一枚の印刷された画像を見せられた。防犯カメラと言うよりはドライブレコーダーに録画されていたらしい画像だ。 黒い革鞄と田口兄が写っている。それと車もだ。ナンバープレートも写っていた。(泥か何かで隠しておけよ……) 泥棒は車で移動する時にはワザと泥などでナンバープレートを隠しておく。防犯カメラに備えるためだ。「鞄を返せと言えば良いだけだ」「鞄の中身は何なの?」 何も知らないふりをして質問してみた。「中身はお前の知ったこっちゃない」 男はディミトリをギロリと睨みつけながら言った。「まあ、そんなに脅すなよ。 中身はそば粉と子供玩具と湧き水を容れたボトルさ」「?」 子供騙しのような嘘だとディミトリは思った。「この写真を見せながら言えよ?」 ボス格の男はそう言うと何枚かの写真を投げて寄越した。 写真には田口と田口兄。それと一組の夫婦らしき男女の写真と、小学生くらいの女の子の写真があった。田口の家族であろう。 最後は故買屋の防犯カメラ映像だ。鞄の処理の前に銅線を売りに行ったらしい。 普通の窃盗犯であれば仕事をした後は暫く鳴りを潜めるものだ。そうしないと探しに来る者がいるかも知れないのだ。(ええーーーー…… 素人かよ……) 余りの幼稚な行動にめまいがしてしまった。「そば粉なら、また買えば良いんじゃないですか?」 ディミトリは話の流れを変えようと言い募った。 窃盗した後に迂闊な行動をする馬鹿と、見張りも立てずに取引物をほったらかしにする素人など相手にしたくなかったのだ。「そば粉は別に良い。 ボトルを返せと言えば良い……」 ここで、ピンと来るモノがあった。(そば粉だと言う話は本当だろう……) 見つかった時の言い訳用だ。拳銃が玩具だというのも本当だろう。万が一、職務質問で見つかっても警察が勘違いだと思わせることが出来るはずだ。 ボス格の男が色々と蕎麦に関してのウンチクを並べているがディミトリの耳に入って来なかった。(だが、ボトルの中身は…… 麻薬リキッドだな……) ディミトリはボトル
大串の家の近所。「いいえ、別に友達ではありません……」 ディミトリは警戒して言っているのでは無い。本当に友人だとは思って居ないのだ。「でも、田口のツレの家から出てきたじゃねぇか」 男の一人が大串の家を顎で示しながら言った。 これで男たちが田口を尾行して、彼が大串の家を訪ねるのを見ていたと推測が出来た。「学校でクラスが同じなだけです……」 ちょっと、面倒事になりそうな予感がし始め、ディミトリは警戒感を顕にしていた。「ちょっと、オマエに頼みたいことが有るんだ」 男が手で合図をすると車が一台やって来た。やって来たのは白の国産車だ。 大串たちの話ではグレーのベンツだったはずだが違っていた。「ちょっと、付き合ってくれ」 開いた後部ドアを指差した。「クラスの連絡事項を伝えに来ただけで、僕は無関係ですよ?」 妙齢のお姉さんであれば喜んで乗るのが、おっさんに誘われて乗るのは御免こうむるとディミトリは思った。「田口に届け物を渡して欲しいんだよ」「それなら、おじさんたちが直接渡したらどうですか?」 ディミトリは尚もゴネながら逃げ出す方法を考えていた。「良いから。 乗れって言ってんだろ?」 ディミトリを知らないおっさんは頭を小突いた。瞬間。頭に血が上り始めた。(くっ……) だが、人通りもあって我慢する事にしたようだ。今はまだディミトリは冷静なのだ。ここで、喧嘩沙汰を起こすと警察が呼ばれてしまう。それは無用な軋轢を起こしてしまう。 それに相手は中年太りのおっさんが三人。ディミトリの敵では無い。チャンスはあると思い直したのだった。(周りに人の目が無ければ、コイツを殺せたの……) ディミトリは残念に思ったのだった。 こうして、ディミトリは大串の家から出てきた所を拉致されてしまった。 連れて行かれたのは中途半端な繁華街という感じの商店街。端っこにあるナイトクラブのような地下の店に連れ込まれた。 まだ、開店前らしく人気は無かった。その店の奥にある事務所に連れ込まれた時に、白い粉やら銃やらをこれ見よがしに置かれているのを見かけた。(ハッタリかな……) まるで無関係の奴に見せても益が無いはずだ。ならば、ハッタリを噛ませて言うことを効かせようという魂胆であろう。 ヤクザがやたら大声で威嚇するのに似ていた。「よお、坊主…… 済まないな……」
「それでマンションに忍び込んで、各階の電線を盗みまくっていたらしいんだけど……」「マンションって屋上にエレベーターの機械室があるじゃん?」「ああ」「そこに入った時に鞄が落ちてたんだそうだ」(いや、それは隠してあると言うんじゃないか?) ツッコミを入れたかったが話を済ませたかったので続きを促した。「工事道具を置きっぱなしにしたものかと思ったんだよ」 鞄の上部にスパナやレンチなどの道具が入っていたそうだ。それで勘違いしたらしい。 こんな物でも故買屋は引き取ってくれるのだそうだ。「それで儲けたと思って鞄と電線を持って帰ってきたんだ」(何故、その場で確認しないんだ……) チラッと見ただけで済ませたらしい。ディミトリのように疑り深い奴なら鞄をひっくり返して中身を確かめるものだ。「でもって、車に戻って中身を全部見たら、拳銃と白い粉が入っていたんだよ」 そのセットはどう考えても犯罪組織に関わり合うものだ。「どう考えても様子がおかしいから、兄貴たちはビビっちまってロッカーに隠したんだってさ」 元の場所に戻しに行こうとしたが、車がやって来るのが見えたので慌てて逃げたらしい。(受け渡しの途中だった可能性が高いな……) 金と物の交換を別々の場所で行い、お互いの安全を図る方法だ。警察の手入れを受けても金だけだと検挙出来難いからだ。 何度も取引をしている組織同士なら安全を優先するものだ。 普通は見張りを配置しておくものだが、それが無かった様子だった。何らかの事情で人手不足だったのかも知れない。「その時には周りに何も無かったらしい」(でも、見落としがあったから今の状態だろうに……)「安心していたら何日か経ってから監視されるようになったんだよ」(所詮は素人が見回した程度だからな……)(時間が掛かったのは監視カメラか何かに映っていたのか?) 恐らくは車などに積まれているドライブレコーダーから足が付いたのではないかと考えた。廃墟のマンションに防犯カメラは設置されていない可能性が高いからだ。「で、具体的に何か言って来たのか?」「いや、ただ付けられただけみたい……」 要するに何もされて居ないのに、勝手に怖がっているだけのようだ。ディミトリは呆れてしまった。「何かしてくるようなら、その時に相談に乗るよ……」 何も要求されていないのなら、何も言う
放課後。 その日一日を平穏無事に済ませたディミトリは帰り支度をしていた。そこに大串が再びやって来た。「なあ……」「行かないよ?」 大串の思惑が分かっているディミトリは素っ気無く言った。「まだ、何も言ってないじゃん……」「田口の兄貴に関わる気は無いよ」「じゃあ、せめて田口の話だけでも聞いてくれよ」「そう言えば今日は田口が来てないな……」 ディミトリが周りを見渡しながら言った。興味が無かったので田口が居ないことに、その時まで気が付かなかったのだ。「ああ、放課後に俺の家に来ることになっている」「そうなんだ」「お前が田口の家に行かないと言ったら、俺の家で相談に乗って欲しいって言ってきたんだよ」「だから、面倒事に関わる気は無いんだってば」「いや、アドバイスだけでも良いと言ってる」「……」「かなり困っているみたいなんだよ」「なんだよ。 情け無いな……」 大串の説得に話だけでも聞いてやるかとディミトリは思った。 それでも手助けはやらないつもりだ。迷惑を掛けられた事はあるが助けてもらった事など無い。いざとなったら、誰かが助けてくれるなどと考えている甘ちゃんなど知った事では無いのだ。(悪さするんなら覚悟決めてやれよ……) そんな事を考えながら、大串と連れ立って彼の家に向かう。 ディミトリはその間も通る道を注意深く観察していた。彼には警察の監視が付いていたはずだからだ。 ところが最近は見かけないと言っていた。恐らく公安警察の剣崎と対峙したあたりから監視が外れているようだ。 ディミトリには何故剣崎が自分を捕まえないのか分からなかった。(まあ、面倒臭そうなら剣崎に投げてしまう手もあるな……) 剣崎が冷静を装ったすまし顔を困惑するのが浮かぶようだ。ディミトリは少しだけほくそ笑んだ。 大串の部屋に入ると田口が暗そうな顔をして座っていた。「やあ」 ディミトリはなるべく明るめに挨拶をしてやった。 まずは話を聞くふりをする必要がある。マンションに忍び込んだ様子から聞き始めた。「兄貴たちは銅線を集めにマンションに行ったんだ」 田口が話している廃墟マンションは何処なのかは直ぐに分かった。 川のすぐ脇にある奴で何年も工事中だったと話を聞いている。工事をしている業者が倒産してしまい、途中で放棄状態になっているマンションなのだ。 そこに田口
「そんな危なっかしい物、どっかのロッカーに押し込んで警察にチクってしまえよ」 ヤクザが足を洗う時には拳銃の処分に困るものだ。海に捨てたり山に埋めたりする手もあるが、面倒くさがりの奴は何処にでもいるものだ。そこで、ロッカーに入れて警察に密告するのだ。後は警察が処分してくれる。「ああ、そうしたんだそうだ……」 田口兄はコインロッカーに鞄を詰め込んで警察に匿名の電話を掛けた。チンピラに毛の生えた程度の小悪党には、薬の売買など手に余ってしまう。ましてや拳銃は犯罪に使われていない確証も無い。巻き込まれるのは嫌だったのだろう。 コインロッカーの場所には警察の車両が集まっていたので、無事に回収されたのだと思ったらしい。「厄介物の処分が終わったんなら良いじゃねぇか」「ところが、田口の兄貴は見張られて居るらしいんだよ」「誰に?」「ここ数日、グレーのベンツが付いて廻るんだと言っていた……」「鞄の元の持ち主じゃねぇの?」「それが分からないから相談したいんだそうだ」「ふーん……」 ここでディミトリは考え込んだ。もうアオイの車を気軽に使えないので、足代わりになる者が必要だからだ。 田口兄は足代わりになるが、今回の事のように少し抜けている所がある。(関わっても得にならねぇな……) 冷静に考えても見張っているのは鞄の所有者だった連中だ。きっと、揉め事になる。揉め事を解決してやっても、得るものが無いと判断したディミトリは見捨てることにした。「俺には関係無い事だ」 ディミトリはそう言って立ち去ろうとした。「そんな冷たい事を言うなよ……」「前にも似たような事言って俺を嵌めたよな?」「……」 これは大串の彼女が薬の売人と揉めたと偽られて嵌められた件だ。元来、ディミトリは裏切り者は許さない質だ。たとえ反省しても、一度裏切った人間は再び裏切るからだ。これは傭兵だった時に何度も経験済みだ。 今、大串たちを処分しないのは、ソレを実行すると日本に居るのが難しくなると考えているに過ぎない。 彼らの命は首の皮一枚で繋がっているだけなのだ。(俺の周りはロクでなしばかりだな……) ディミトリは苦笑してしまった。少し、ハードな日々が続いて疲れているのだ。 出来れば何も起こらないことを願っていた。 今回の田口兄にしろ小波が大波になってしまう。今はなるだけ避けたいものだと